置いてゆく
「いつかこんな日が来るのは分かってたから」
「寂しくないの?」
「どうだろう。まだ分からないや」
「姉さんのウェディングドレス姿を見たら泣いちゃうかもね」
「父親かよ」
喉を鳴らしてくつくつと笑う祐司さんに、こちらもゆるりと口許だけの笑みを返す。
「それじゃあ、さっきの続き。良い方の話を教えてあげる」
コップにお湯を注いでスプーンで軽くかき混ぜてから祐司さんがこちらにやって来る。その顔に浮かべたものは穏やかなものであったけど、私にはそれがひどく不自然なものに思えた。
ふわりとココアの甘い匂いが鼻をかすめて、追うように苦い香りが漂ってくるのに気づく。そういえば、姉さんは珈琲が好きだった。
「姉さんね、祐司さんのことずっと好きだったんだよ」
その言葉を発した瞬間、すぐ傍でガシャンと机にカップを叩きつける大きな音がした。ちらりとそちらに目をやると、祐司さんが驚愕に目を見開いていた。
「何で、」
「私、知ってたの。姉さんが祐司さんを好きなことも、祐司さんが姉さんを好きなことも」
祐司さんが私の言葉に気まずそうに目を逸らした。