古代風より
古代の風より。5


大町裕太が「船の水」教団を訪れたのは二年前の暮れ。
クリスマスが終わり、北の国で寒波の襲来で凍死者が出た、とニュースで騒がれていた時だった。

「唐木先生に会いたいんですが」
連絡は入れてなかった。
「あの……」
応対した教団の女性は戸惑った。
唐木は約束した人間としか会わない。………約束した人間でさえ時には会わない事がある。
「取り次ぐ訳には……」
いかなかった。何も言われてない時は唐木には相手が誰であろうと「取り次がない」、と云うのは教団の不文律になっていたからだ。

……が、その場に中山京子がいた。
「唐木に……なにか?」
「唐木先生のお噂を聞いてお話しを…と思いまして」
中山は大町裕太を一目見て、何処か唐木に似た雰囲気を感じ取っていた。
「先生いますか?」
大町はなおも問う。物腰は柔らかい。唐木は人を射竦める様な目をしているが、大町の目は優しい。

大町に唐木に相通ずるものがあるとは思ったが、反面まるで正反対の様な印象も受けた。それでもこのまま帰すのは「惜しい」、そう思わせる人物だった。
「待って下さい。……聞いてきますから」

唐木は大町と会うことを承諾して一時間ほど話して帰っていった。
話しの内容は特別な事ではなく、「世間話し」に近い。専門は考古学だが「神学は独自」に探求している、と云う。「古代の儀式の研究」もしている、と云う事だった。

しかし……唐木と中山は大町が「魔法陣」を描き、その中心で首を切ったカラスの体を持ち、血を魔法陣の中心に滴らせているのを透視した。「血の儀式」だった。

大町が帰ったあと、
「中山君。彼(大町)をどう思う」
中山は大町の残していった名刺を手に取りじっと見つめ、名刺を置き宙を見つめた。
名刺には「洛北大学教授。大町裕太」の名がある。
中山は目の前の空間にホロスコープを描き、星と数字を嵌め込んでいった。
「危険な人物ですが…悪魔崇拝、とも思われません。よく分かりません……不思議な人物です。何かに護られている様な……人霊ではなく……何か文字の様なもので護られています……それと先生と同じ星が一つあります。でも……先生とも違います。修行者でしょうか?」
「そうか……分からないか……でも、修行者とは少し違うな……」
「.……………?」
「私と、この教団を直に見たかったんだろうな」
「……………」
「招かれざる客……だな……」
「それはどう言う?…」
「大町教授を護っているのは呪文だ……大町は呪文狩りだよ」
「呪文狩り……以前、先生が話しておられた……」
「あぁ………彼の身体の周りに古代文字が見えた。大町は呪文使いだ」
「……………」
「古代の葬りさられたと云われる、(神呪文)を見つけ出し、現界と霊界の秘密を探ろうとする人間がいる。
「異端者ですか?」
「彼等は自分達が異端だとは思っていないよ」
「……………」
「古代の儀式はこれまで発掘物からある程度は解明されているが、言葉の伝承方法が口伝だった時代が長く続く内に間違ったり、途絶えたりしていたが、優れた伝承者は独自の文字を持ち、それを一族に永続させてきていた。……それが……今から400年前に謎のまま途絶えた。それを探してる者がいる」
「……………」
「我等こそ正統…だとね……が、大町裕太はそれとも違う……或いは一族の人間かも知れないが……あまり関わらない方がいいな………ただ………」
「ただ………?」
「……ただ、到達点は違うとはいえ、途上は重なる。いつか何処かで関わるかもしれないな…その時は………」
中山は唐木の顔を吸い込まれるように覗いた。
「その時は?……」
「その時は君達次第だな」……その言葉を中山京子は思い出していた。



大町裕太と会えばそれ以来、と云うことになる。

「唐木先生……この場所を調べますか?」
池端が問う。
「………いや……ここはもういい。柱と骨の保管している所に案内して下さい」

「役場に行くのに少し時間が掛かります。車で行きましょう」
池端の車は用意してある。
「いや、歩きましょう。歩いてどのぐらい?」
中山が聞く。村の様子を歩いて見ておきたかった。
「15分程です」
四人は役場に向かい歩き始めた。
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