年上のあなた、年下のきみ
演技だとわかってはいても、相手役の部員はこのシーンになると必ず恥ずかしそうに頬を染めているのだが、先輩の顔には動揺はおろかなんの感情も見られない。
あるのはただ、ただひたすらに優しい微笑みだけ。
少しでもその表情に動揺を引き出したくて、重ねたままの手に力を込めてみるが、先輩の表情は変わらない。
「今日のぼくの演技、どうでした?」
先輩からは決して繋いでくれない手に力を込めたまま、直球で問いかける。
先輩に教えられたことを意識して、全力でやりきった。
間違いなく今ぼくができる精一杯の演技で、他の部員達も、最後の通し練習を見に来た顧問も、みんな口々に絶賛して本番さながらの盛大な拍手を送ってくれた。
その時は確かに、その中に先輩の姿もあった。
それなのにまだ足りないのか、あの笑顔は、あの賛辞は、あの拍手は、全てお世辞だったのか。
すぐ目の前にある先輩の顔を、その優しいだけの笑顔を真っ直ぐに見つめる。
「うん、すごく良かったよ。間違いなく、今までで一番だった」