年上のあなた、年下のきみ
相手役の子をあなただと思って演じました、と言ったら……先輩は、どんな顔をするだろうか。
ほんのり頬を赤く染めて、恥ずかしそうに笑う先輩の姿を想像してみる。
「でもね木田くん、一つだけ」
けれど現実の先輩は、想像していたのとは全く違うただ優しいだけの、言ってみればよそ行きの笑顔でぼくを見つめていた。
「壁に手を付くときは、もう少し上の方がいいわね。でないと、相手の子の顔が客席から見えないでしょ?」
ああ、やっぱり……この人の中でのぼくは、母校の後輩で、最も指導に力を入れるべき部員で、それ以下にはなり得てもそれ以上にはなりえない存在。
胸の中に、どうしようもない悔しさと敗北感が広がっていく。
そんなぼくの気持ちなど露知らず、先輩は今も変わらず微笑んでいる。
悲しくて、悔しくて、やるせなくて……どうしても先輩に認めてもらいたくて、せめてぼくが男であると認識して、少しは動揺して欲しくて、微笑む先輩に何も言わずに顔を寄せた。