年上のあなた、年下のきみ
先ほどまでシーンと静まり返っていたのがまるで嘘のように、わいわいと騒がしく群がってきた部員達の勢いに押されて、ぼくは輪の外へと弾き出される。
「こらこらみんな、まだ部活中でしょ。私だって毎日来られるわけじゃないんだから。ぱぱっと次にシーンに行くよ。お喋りは、部活のあとにね」
笑顔で優しくたしなめるその人は、かつてこの高校で演劇部に所属していたぼくらの先輩であり、卒業後は舞台で活躍しているプロであり、今は顧問の頼みで後輩であるぼく達に演技指導をしに来てくれる特別講師でもある。
OGとはいえプロが指導しに来てくれるとあって、直接はその人を知らない世代の後輩達も、黄色い声を上げながら何かとまとわりついている。
そんな後輩達のミーハーさに苦笑しながらも、優しい対応を崩さないその人を、弾かれた輪の外からぼんやりと眺めて、意味もなく開きっぱなしになっていた口から小さく息を吐いた。
「木田くん」
不意にこちらを向いたその人に名前を呼ばれ、思わずビクッと肩が揺れる。
その拍子に、吐いたばかりの息を短く勢いよく吸い込んだ。
口元にたたえられた柔らかな微笑みに、また胸が高鳴る。