年上のあなた、年下のきみ
「そうね」
真剣な木田くんの瞳を、上っ面だけの笑顔で受け流す。
「私を満足させられるような演技ができたら、かしらね」
ごめんね木田くん……大人っていうのは、ずるい生き物なのだ。
答えは既に決まっているのに、それをはっきりと口にすることも、真っ向から相手の気持ちに向き合うこともせず、ずるい私はひたすらに逃げる。
好きだけど恋愛対象にはなりえない、なんて、きっと説明しても木田くんは納得してくれない。
だから、説明することを放棄して、その若い瞳が別の方向を向いてくれるまで、ただひたすらに、のらりくらりと逃げ続ける。
「休憩はそろそろ終わりね。私はちょっと外すけど、直ぐに戻ってくるから自主練しておいてってみんなに伝えてくれる」
返事も待たずに言いたいことだけ言い残して、足早に角を曲がって木田くんの視界から消える。
最後にチラリと見えた横顔は、とても悔しそうだった。