寡黙な夫が豹変した夜

「そうだね。でも高校を卒業してもう十五年も経ったなんて信じられないよね」

「うん。あ。あれって菜摘の元カレの後藤くんじゃない?」

「本当だ。昔も格好良かったけど、ますます格好良くなったんじゃない?」

薫と浩美の会話を聞きながらさりげなく視線を向けると、そこにはシャンパングラスを手に談笑している後藤くんの姿があった。

口を大きく開けて豪快に笑う様子は、高校生の時と変わらない。

けれど、どことなく大人の余裕を醸し出す彼の姿を見てしまったら、イイ男になったと認めざるを得なかった。

「ねえ、菜摘。どうして後藤くんと別れたんだっけ?」

薫の問い掛けを聞いた私の心に蘇るのは、ビターチョコレートのように少しだけほろ苦い高校時代の思い出。

学年で一番のモテ男だった後藤くんからまさかの告白をされた私は、すぐにYESと返事をした。

付き合い始めた頃は、うるさいくらいに『菜摘。好きだ』とか『菜摘って可愛いな』と言ってくれた。

でも長く付き合っていくうちに、後藤くんの口から愛情表現の言葉が出る回数が自然と減っていく。

不安になった私は後藤くんに『ねえ?私のこと好き?』と一日に何度も聞くウザい女になってしまった。

その結果。ケンカになるのは当然で、後藤くんとは卒業を前に別れてしまったのだ。

少しの変化に気付いて言葉にして欲しいと夫に望む私は、もしかして高校時代からちっとも成長していないのかもしれない。

そんなことを考えながら、私はバンケットルームの後方に並んでいるオードブルを取りに行った。

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