寡黙な夫が豹変した夜
十五年ぶりに再会した同級生とまだまだ話足りないと思うのは、どうやら私だけではないようだ。
だから只今、二次会に出陣するためにパウダールームに引きこもり中。
今日のために新しく買ったハニーピンクのリップグロスを塗っていると、鏡に映った薫のサラサラなストレートの黒髪が目に留まった。
「薫の髪の毛って本当に綺麗だよね。乾かすのに何分かかるの?」
「んー。二十分くらかな」
「そうなんだ。真菜も幼稚園に入園したし、私もまた伸ばしてみようかな」
「そう言えば菜摘も高校生の時から髪の毛が長かったもんね」
「うん」
長かった髪の毛を切ったきっかけは、真菜の出産。
初めての育児に追われて、長い髪の毛のお手入れをするのはきっと無理。そう判断したのだ。
月一で美容院とエステ通っていた独身時代が懐かしい。
「でも菜摘。そのふんわりボブ可愛いよ。菜摘に良く似合っている」
「え?そう?ありがとう」
月一で美容院に通うのは無理だけれど、同窓会に出席するために実は先週、美容院に行ったばかり。
ついでにネイルサロンにも行って、ピンクベースのフレンチネイルを施してもらった。
薫は『似合っている』と。そして娘の真菜は『ママ可愛い』と褒めてくれた。
でも、夫は何も言ってくれなかったっけ。
ああ。もう、夫のことを考えるのは止めよう。
だって、今日は同窓会。
日常のことは忘れて、今だけは高校生の頃に戻ったように無邪気に笑いたい。
気持ちを切り替えた私はハニーピンクのリップグロスをポーチにしまうと、薫と真菜が褒めてくれた髪型を整えるのだった。