忠実わんこに愛を囁く
私の背中が壁にぶつかり、彼が壁に手をついた音が耳元で響いた。
目の前には、君島の困り顔。
女の私より肌が綺麗で、真っ直ぐ見つめてくる黒曜石みたいな瞳には、脈打つ心臓に反して冷静な顔をしている自分がいた。
「……先輩。少しは動揺してください」
してるんだけどな。
震えた声で言うきみに、今更そんなこと言えないけど。
それより私は、真意が知りたかった。
「絶対バレてると思ったから、言わなかったんですけど」
君島、顔真っ赤だ。
そんな彼がこの状況で次に言うことは、きっと誰もが予想できる。
「俺、先輩のこと興味本位とかじゃなく、本気で好きです」
それは、私が長い間もやもやと悩んでいたこと。
無駄にイラついたり、コイツの誘いを素直に受け入れられないことの理由だった。
食事に誘うのは、好意があるからか、遊びか、分からなくて。
私は今まで、何度も何度もコイツの全部を突っぱねてきた。
「知ってました? うちの課長、先輩のこと狙ってるんですよ。だから牽制のつもりで、皆の前で飯誘ったりしてました。まさかそれで、先輩に迷惑がかかるとは思ってなかったんですけど」
何だそれ。
「だから、からかいとかじゃなく、本気で先輩のこと好きなんです!」
馬鹿だなあ、私。
「毎回飯断られるし無視されるし、先輩は俺のこと嫌いなのかもしれないけど、それでも……っ!?」
堪らなくなって、目の前の彼に抱き着いた。
安心と喜びが込み上げて。
「せせせ先輩!?」
「君島、黙って」
「……っ!?」
忠実わんこなきみには、私からキスをあげる。
そして、囁こう。
「……私もずっと、好きだった」
“面倒”なこの感情も、悪くないかもね。
Fin.