忠実わんこに愛を囁く
「今度一緒にランチ行きましょう? 先輩と仲良しのミキハラさん? その人と一緒でもいいですから!」
「遠慮します」
「即答!? ランチもだめで、今日もだめ!? 花の金曜日なんですよ!? それに、少しくらい悩む素振り見せましょう!?」
隣りで嘆く声が聞こえる。
どんな顔をしているのかも想像できて笑えるけど、とりあえず無視。
だって、面倒だから。
でも、少し面白いかも、なんて思う自分もいる。
とっくに定時を過ぎたオフィスに響くのは、パソコンのキーボードを叩く音と、不満そうな声。
私たちがこんな関係になったのは、いつの頃だったか。
すぐに思い出せないくらいには、時間が経ったように感じる。
隣りで煩わしい程に吠えるのは、私の2つ年下で24歳の君島(きみじま)。
こんなヤツなのに、社内では断トツで女性人気が高いらしい。
所謂イケメンと言われる部類で、私もかっこいいと思わないこともない、かもしれない。
社内の女性が言うには、わんこ系でついつい構ってあげたくなる可愛さがあるとか。
それなのに、さらりと仕事をこなすところがイイんだとか。
明るくてよく喋り、いつでも笑顔。
そういうのがイイんだって。