忠実わんこに愛を囁く

 やっと静かになった。


 今のうちに仕事を終わらせよう。


 ……そう思ってパソコンに向き直るんだけど、なぜだかキーボードを叩く指が上手く動いてくれない。


 どうしたものか。


 そのまま時間だけが過ぎていき、さっきまでサクサクと進んでいた資料作りはそこで止まったままだ。


 その理由、分かってるけど認めたくない。


 ああ、こんな感情、本当に面倒だ。


「……君島」


「ハイッ!?」


 なんだその声って突っ込みたくなるくらいに裏返った声で、コイツは返事をした。


 元気すぎて煩いけど、少しだけそれが心地いいって思う私はどうかしてる。


 そんな気持ちを押し込めて、さっきよりスムーズに動く指をキーボードに走らせて、話しかける。


「なんでまだ残ってるの? 帰れば?」


「う、あー、いや。帰れませんよ……?」


「なんでよ、仕事終わったんでしょ? ご飯なんて行かないから、帰った方が有意義な時間過ごせるんじゃない?」


 なんて、本心を隠してそういえば、君島はいつもの勢いはどこに行ったのかと思うくらい、静かに呟いた。


「……だって、先輩がやってるそれ、俺のせいでしょ?」 
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