執事が男に変わる時
愛しい人
「どうしよう……まさか執事とこんなことになるなんて、お父様をがっかりさせちゃうかな」

真夜中、隣で眠る愛しい人の顔を見つめて呟く。
海藤に抱かれたことに後悔はないけど、お世話になったお父様を失望させるのは気がかりだった。

「後悔しているんですか?」

サイドテーブルの眼鏡をかけながら彼が尋ねる。
眠っていると思っていた私は気まずい思いながら、強い口調で否定する。

「そんなわけない!!」

彼は温かい大きな手で私の頭を撫でて、穏やかな笑顔を浮かべていた。

「当たり前です。
それにお父上は失望したりはしませんよ。むしろ、やはりと思ぐらいでしょう」

「どういうこと?」私の頭のなかは?でいっぱいだ。

「彼との結婚がなくなっても、取引に影響はありません。

あなたが学校で勉強している間、私は専務という立場で仕事をしていましてね。

会社のことは心配ありませんよ」

専務……?
それならどうして、私の執事なんかをしていたの……?

困惑した私の疑問を汲み取って、彼の口は答えを紡ぐ。

「本当はあなたの執事は、就職して二年間だけの約束だったのです。それを延ばして欲しいと望んだのは私です。

兄のような気持ちになって、あなたが成長して幸せになる姿を見たくなった。

純粋にそう望んでいるはずだったのに、今日他の男とキスしているあなたを見て気が狂いそうになった。

今更、自分があなたを幸せにしたかったんだと気付いたんです。

ずっと自分の気持ちに嘘をついていたのは私の方でした」
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