執事が男に変わる時
「おはようございます。唯様。
大学に遅れますよ」

爽やかな挨拶と共に朝食が運ばれてきてもベッドから降りようとしない私に、痺れを切らした海藤が声をかけてくる。

朝と夜は必ず私の部屋へ来て世話を焼いてくる海藤。
ほぼ毎日朝陽と共に目が覚める私が、彼にこんな姿を見せるのは珍しかった。

「いいの。
今日はどうせ就職についての講座ばかりなんだもの。私には……関係ない。

それよりお料理教室は決まった?
私が作れる料理といえば庶民の味ばかりなのだもの。

彼に呆れられてしまうわ」

無表情で私の布団を引き剥がした後、海藤は紅茶を注ぎ始める。
フルーティーな香りが鼻孔をくすぐり、しぶしぶベッドから降りると、 彼が言葉を漏らした。

「もっと我が儘になってもいいのではないですか。
自分の気持ちに嘘をついて生きることを、私はお勧めしませんが」

何も言えずに私は紅茶を口に含む。

嘘なんてついていない。
お父様の為、自分の為、これが最良の選択なのだから。

そう信じているのに、甘いはずのモンターニュ・ブルーが今日は何故か苦く感じた。
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