記憶と共に幽霊と。
「残念だけど、私はそろそろ行かないとねぇ…。ま、私はこの子の人格にはあまり影響しないようにしたから平気だよ。私が出てるときは少なかったから、あなたたちのことも覚えてるわ」
ふふっと笑った。
その笑顔は悲しそうにも見えたし、嬉しそうにも見えた。

「部長…。いって…しまうんですか…?」

私の言葉に、部長はうなずく。

部長は私の首に腕を回し、抱き付く。

「ばいばい、明日香ちゃん。元気でね」

耳元でふふっと笑い、部長の体から力が抜けた。

「部長!!」

髪の色が抜けていき、ただの黒髪に戻った。
そして、頭に巻いていたタオルは消滅していた。
「あれ?明日香…ちゃん?どうして…」
ぼんやりする部長はいつもと違った雰囲気を持っていた。
「あ…あっと…なんで、抱きついてるんだろ…。ごめん、明日香ちゃん」
私に抱きついていたことに気づいた部長はすぐに離れる。
「大丈夫ですよ。気にしないでください」
私が言って微笑むと、少し落ち着いたようで自分の格好に気がついたらしい。

「え…?何でオレ、スカート履いてんだ?」

“あのこ”がいなくなったことで、自分の格好が普通でないことに気づいた部長。
「あなたのズボンなら、ロッカーの中ですよ。直樹部長」
“あのこ”が嫌がっていた、彼の名前。
“あのこ”がまだ中にいたのなら、すぐに反応があるはず。
「そっか、ありがと。明日香ちゃん」

普通だった。
“あのこ”はもういない。
そう、言われている気がした。
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