悪縁男子!~心ごとアイツに奪われて~
──か、間接キス……。


形の良い彼の唇が、あたしがさっき口を付けた部分と同じところに重なるのを見て、ドキリとした。

ぺろりと舌で唇を舐める仕草も妙にセクシーで、思わず見惚れてしまっていたあたしは、どぎまぎしながら目を逸らした。


「……あま」


二文字で感想を呟く柳。

ん、と返されたカップを受け取る時、指が触れ合うだけでも心臓が跳ね上がる。

なになに、あたしどうしちゃったの?


久々にモノを奪われたというのに、文句を言うのも忘れていたあたしから、柳があっさりと離れていく。


「じゃ、俺まだ寄るとこあるから。気をつけて帰れよ」

「あ、うん、じゃあ……」


いつものようにひらりと軽く手を振って駅ビルの方へと向かっていく柳を、あたしはただぼーっと眺めていた。

彼の姿が見えなくなると、カップに目線を落とす。

まだ半分も残っているし、飲まないなんてもったいない。けど……


……いやいや、なに間接キスくらいで意識してるのあたし!!

アイツなんてなーんにも気にしてないっていうのに。

さっきの『ひよりがくれるなら──』なんて言葉も、たいした意味なんてないよね、きっと。


不本意ながらドキドキする胸を抑え、あたしは思い切ってカフェラテに口を付けた。


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