悪縁男子!~心ごとアイツに奪われて~
「なんか抱き心地いいし」

「はぁ~!?」


肩から上をぎゅーっと抱きしめられながら、手をバタバタさせてもがくあたし。

たしかにこれならあたしの顔はわからないだろうけど、だからってこんなことする必要あるー!?


柳の匂いが否応なしに鼻腔をくすぐって、間近でくぐもった声が聞こえて……

心臓がありえないくらい早く脈打ってるんですけど!


「もう! お願いだから離し──」

「何かあったんだろ、嫌なことが。だから俯いてたんじゃねーの?」


急に柳の声が真面目なものになって、抵抗していた動きをぴたりと止める。


気付いたんだ……のんびり屋でも意外と鋭いんだね。

静かになったあたしを、彼はしっかりと抱きしめ直して、優しく囁いた。


「……だから、今は大人しくここにいろって」



──身体から余分な力が抜けていく。

どうしてだかわからないけど、抵抗する気は呆気なくなくなっていった。


初めてこんなふうに包まれた柳の腕の中は、とてもとても温かくて。

こうしていれば本当に大丈夫なような気がして、ただ身を任せているのが心地良かった。


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