悪縁男子!~心ごとアイツに奪われて~
「あのこと引きずってんのかな、藤沢……」

「あのこと?」


今度はあたしが聞き返すと、一瞬はっとした様子の柳は、へらっと笑ってこんなことを言う。


「え。俺、今何か言った?」

「とぼけるんじゃない!」


思いっきり耳を引っ張ると、「いててて」と顔をしかめる柳。

そんな意味深なことを聞いちゃったら気になるでしょーが!


「亜美の様子、ちょっとおかしかったの。何か知ってるなら教えてよ」

「いや、俺が言っていいかわかんねぇしなぁ……」


やっぱり秘密なことがあるんだ。

珍しく歯切れの悪い返事をする柳を、あたしは据わった目で見ながら口を尖らせる。


「あたしからは強引に聞き出したくせに言わないんだ? ふ~んそう、二人だけの秘密なんだ~へぇ~」


まったく感情がこもっていない口調で言うと、隣から小さく「チッ」と聞こえた。

舌打ちしたよ、この人。やな感じ。

じろりと睨むと、くしゃくしゃと髪を掻いた柳は、観念したように一つ息を吐き出す。


「……わかったよ。教えるけど、何も聞かなかったことにしろよ」


そんなこと出来るわけないと思いながらも、とりあえず頷いた。

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