悪縁男子!~心ごとアイツに奪われて~
◇*°君のこと、もらっちゃおうかな
──晴天のへきれき。
それは春休み真っ只中の夜、東條家の食卓で起こった。
「し、秋(シュウ)ちゃんが春から葉藍に来る~!?」
ぽろりと箸から肉じゃがの人参を落として叫ぶあたしに、お父さんはビールが入ったグラスを置いてニコニコ笑顔を見せる。
「そうなんだよ、父さんも今日聞いてな。こっちに戻ってきて、非常勤の先生として働くらしいぞ」
「うっそぉ……!」
「よかったじゃない、ひより。昔から秋ちゃんのこと慕ってたものね」
嬉しそうに笑うお母さんだけど、あたしはしばらくぽかんとしていた。
秋ちゃん──南澤秋史(ミナミサワ シュウジ)は、昔よくお世話になった、お兄ちゃん的存在の人だ。
あたしとは7歳離れていて、現在24歳。
お父さんの会社で働く、部長さんの息子で、小学生の頃まではよく遊んでもらっていたのだけど。
彼がこの地元から離れた教育学部がある大学へ行ってから、めっきり会わなくなっていた。
イケメンな好青年で、面倒見のいいお兄ちゃんとして、この東條家ではかなーり好評。
あたしも、優しくてカッコいい秋ちゃんのことは当時から好きだった。
もちろん、ラブではなくて、ライクの方だけど。