悪縁男子!~心ごとアイツに奪われて~
お父さんは何度目かのため息とともに、こんなことを漏らした。


「あの子がそういう子だってわかったから、お前から引き離そうと手を打っておいたっていうのに」


ピクリ、と耳が反応する。

“引き離そうと手を打った”って……


「……どういうこと?」

「あの件の後、そこの大崎さんの家に遊びに来てた柳くんに忠告したんだ。『もうひよりには学校以外では近付かないでくれ』って」


──その瞬間、柳が言ったことの謎が解けた。


『来たくても来ちゃいけねぇからな、俺は』


きっと、お父さんに近付くなと言われたから、柳はずっとあたしの前に現れなかったんだ──。



「……ひどい……」


いくらあの事件があったからって、まだ小学生の柳にそんなことを言ったなんて。

目に映るフローリングがぼやけていく。

込み上げる熱いものを堪えながら、あたしは顔を上げた。


「あれは、本当は柳じゃない。柳は何も悪くないんだよ」

「何言ってるんだ、ひより?」

「お金を取ったのは別の子で、柳はそれをかばっただけなの。あたし達を守ろうとしてくれたんだよ」


必死で訴えるけれど、お父さんはいぶかしげに眉根を寄せるだけ。

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