悪縁男子!~心ごとアイツに奪われて~
こんな恥ずかしいことを言ったのは初めてだ。

どんな言葉が返ってくるかも怖くて、心臓がドクドクと激しく動き出す。



「……本気でそう思ってんの?」


しばらくの沈黙の後、柳の低く小さな声が、木々を揺らす緩やかな風に乗って届いた。

あたしは目元を手で拭うと、まっすぐ彼と目を合わせて頷く。


「もちろん本気だよ」


クリアになった視界には、何かを決意したような、凜とした表情の柳が映る。

男らしさを感じて、ドキリと胸を鳴らした時。


「なら、一緒に逃げるか」


そう言って、彼はおもむろにあたしの右手を握った。

まるで、王子様がお姫様の手を取るように。


簡単にブランコから立ち上がらせられると、柳はあたしの手を引いて突然早足で歩き始めた。


「え、ちょ、柳……!?」


バッグとケーキの箱を落としそうになりながらも、大きな手をしっかりと握り返す。

歩きながら振り返った柳は、精悍(せいかん)な顔つきでこう言った。


「俺が、お前を奪い去ってやるよ」



──誰もいなくなった公園では、あたしが乗っていたブランコだけがわずかに揺れていた。


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