悪縁男子!~心ごとアイツに奪われて~
「あれ、えっとー……ひよりちゃん、だっけ?」


盛り上がる声とは明らかに違う低い声が、あたしの右側から聞こえてきた。

この声、誰?と思いつつ振り向くと、そこには。

今まですっかり存在を忘れていたけれど、顔は忘れることがない人があたしを見下ろしていた。


「み、深山、さん……!?」

「お。嬉しいな、名前覚えててくれたんだ」


目を見開き、身体を強張らせるあたしに、忌まわしき最低男がにこりと微笑む。

この人にラブホに連れ込まれそうになったあの時のことは、忘れたくても忘れられない。

亜美とリカも深山さんに気付いて、驚きを隠せない様子。


「久しぶりだね。君達も来てたんだ」

「あ、あなたは、何でここに……!?」

「ダチがここでバンドやってて、ライブ見に来いって言うから来たんだよ。まさかこんなとこでまた会えるなんてね」


至近距離にいる深山さんに、身体が勝手に拒否反応を起こしてしまう。

でも、まだ人が密集している今は逃げられそうにない。

彼はあたしの肩を抱くように手を伸ばしながら、あの時と同じ怪しげな笑みを浮かべる。

< 282 / 292 >

この作品をシェア

pagetop