悪縁男子!~心ごとアイツに奪われて~
彼が振り向き、斜めに流された少し長い前髪から覗く大きな瞳があたしを捉える。

用があるわけでもないのに、なんか呼び止めちゃった……。

でも、これだけは言っておかなきゃ。


「あの、さっきはありがとね」


柳が助けてくれなければ、あたしは今頃あの肉食獣の餌食になっていたに違いない。

素直にお礼を言うと、柳はクスッと笑って小さく頷く。


「これからは気をつけろよ。ヒーローはそんなに都合良く現れねぇからな」

「あはは。うん、そうだね」

「じゃーな」

「うん」


ひらひらと後ろ手を振って、古い日本家屋の中へ入っていく柳を、あたしは何とも言えない気持ちで見ていた。

携帯の番号とか、聞いておけばよかったかな……聞いたところで連絡することなんてないだろうけど。


「“ヒーローは都合良く現れない”……か」


もう偶然会うことはない?

……ううん、あたし達はくされ縁だもん。またどこかでばったり会えるよ。

きっと、また会える。


そう自分に言い聞かせていて気が付いた。

あたし、柳と別れて寂しいんじゃん──。


< 36 / 292 >

この作品をシェア

pagetop