悪縁男子!~心ごとアイツに奪われて~
「俺らのバンドもちょっとここ使いたいんだけど、この後いい?」

「いいですよー。じゃ、17時半に交代しますか」

「あぁ、サンキュ。つーか、お前ら練習しなくても完璧だろ」

「んなことないっすから!」


長机の下で縮こまるあたしは、笑い合いながら皆が話す声に耳を澄ませる。

その感じからして、ユアフールというバンドはやっぱり完成度が高いんだろうなと思った。

まだ一年なのにすごいな……。


またすぐにドアを開ける音がして、先輩の声も聞こえなくなった。

もう出てもいいよね?

そう思って、長机の下から出ようとした瞬間。


「わりぃ、もういいぞ」

「ひゃ!」


しゃがんであたしを覗き込む柳が目の前に現れ、びっくりして後ろにのけ反った。

バランスを崩した身体が傾き、尻餅をつきそうになった、その時。


「お……っと」


とっさにあたしの腰に手を回して、柳が支えてくれた。


──抱きしめられたみたいに密着する身体。

もう少しで唇が触れてしまいそうなほど近くにある顔……。

予想外の急接近に、あたし達は見つめ合ったまま一時停止した。

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