悪縁男子!~心ごとアイツに奪われて~
「バンド組んだ当初は違う名前だったんだけど。会うたびに、俺達って練習ばっかやっててバカだよなーって話してて」

「あ……もしかしてそれで“ユアフール”?」

「そう。あの時先生に言われたフレーズを思い出して、“ユアフール”ってバンドバカな俺達にぴったりじゃね?ってことで改名したわけ」


名前の由来は何なんだろうと思っていたけど、そういうことだったんだ。

あたしからすれば、全然バカなんかじゃないんだけどな。むしろ尊敬しちゃう。


「俺は本気で将来ギタリストになりたいよ。叶う保証なんか全然ない夢だけど、俺にやれることってコレしかねぇからさ」


顔を上げて、柳は白い息とともに本音を空へと上らせる。

キラキラと瞬く星を捉えた綺麗な瞳が、今度はあたしに向けられた。


「お前、絵描くの好きだったよな?」

「あー、うん。覚えてたんだ」

「そりゃ覚えてるよ。それを将来やりたいとか考えないの?」

「……考えるよ。自分の好きなこと、仕事に出来たら素敵だなって」


それはきっと、誰もが思うことなんだろう。

世の中、そんなに甘くないことは十分わかっているけれど。それでも。


「ひよりも飛び込んでこいよ。少しくらい人の言うこと聞かなくたって、逮捕されるわけじゃないんだから」


──柳の明るい笑みは、あたしに勇気をくれるような気がした。

< 81 / 292 >

この作品をシェア

pagetop