荘(仮)
 さっそくであるが、芳章が外で掃除をしている、なんて選択肢は除外されていた。
 三度の飯より昼寝と自堕落が好きなダメ人間が進んで掃除をしている、など付き合いが長いほどに想像もできない。
 だから常連となったさぼり先に

「突撃インタビュー!!」
 ドアを蹴破る、なんて非常識な真似はしない。
 それに等しい勢いだったが。
 年寄り臭いのか和が好きなのか芳章は、よくそこで茶を飲んでいた。

「おや、美琴」
「そんなに急いでどうしたの?」
 眼鏡を掛けたご老人。
 見た目は若くないというのに、どこか覇気と精気に満ちた方だ。
 もう一人はこの部屋の住人ではない娘。
 下の階からやってきたのだが。
「またサボりか、アンタ」
「ささ、サボりじゃないよっ」
 校証の入ったブラウスに学校指定のセーター、そんな格好で学校が休みなど片腹痛かった。
「いいではないか。年寄りの相手をすることも、大切だ」
「貴方は年寄りに見えないんだけど」
 現役で働けそうだ。
 512号室の駿河疾風。
 ここ一番の年長者で古株だ。疾風爺さん、など老若男女問わずに大人気だ。
「美琴にもお菓子をあげよう」
「結構よっ」
 と言いつつちゃっかりもらう。
 手作りなのか出所は知れないが、彼がくれるお菓子はとにかく美味しいのだ。

「それで美琴さん、きょうはどうしたの?」
「そんな物騒な物を持っていては危ないぞ」
「大丈夫。危険なのは一人だけだから」
 ふふ、と笑う美琴。
 瞳が陰惨と輝いたのを見落とさない。
 それだけで何があったかのおおよそに見当が付く。
 二人もまた、付き合いが長いのだ。
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