荘(仮)
 混沌はよりひどくなっていく。
 アルコールもないのに何故。
 疑問に思っていると、冷めたハンバーグを食べる管理人。
「そろそろストックが切れるな」
 その前に、作ってばかりの人が暴動起こすのが先だ。
 ならば――
 人の心を読んだのか。奴はピン、と指を鳴らせて。
 凶悪なまでに笑みを浮かべて。

「――ここに料理できる奴がいるぞーーー!!」

 なんて、人を指差して宣言しやがった!!

「おまっ」

「美琴って料理うまいのか?」
「この前の肉じゃが、彼女の作品なのよ」
「む。その腕前は見てみたい」
「孫に近しい子の手料理が食べられるとは…」
「が、外見小学生の手料理…」
「危ねえよおまえ」
「みこっちはやく作れー!」
「全員貴女の料理を所望しています。はやく料理してくださりやがれ」

「大変なことになったな☆」
 語尾に星が見えた。
 すごく楽しそうである。畜生、逃げたくても逃げられない。

 肉に群がるハイエナか、
 テレビに映りたがる野次馬か、
 水を得た魚? いいえ、薬を見つけたヤクザです。
 そのくらいの勢いなのだ。
 ぶっちゃけ怖い。
 大人子供問わず、大勢が人の名前を連呼してウェーブしている。

「こんなのってあり?」
 正直泣きたい。

「そんなもんだって」
 相変わらず笑っている。

「楽しいだろ?」

 喧騒と
 笑顔と
 暖かな夜に

「――そうね」

 わたしは少し、酔っていた。
 軽快に一歩前に踏み出して
 下の世界に飛び降りた。

「ちょっと楽しんでくる」



 この上なく、喜色に満ちた笑みを浮かべていた。
「まったく。はじめからそうしろよな」
 ふだんから、そんなに楽しそうなくせに。ふとしたことで笑顔を忘れる大馬鹿。
 世話のやけることだ。
「上下関係のわからん奴だ」
 そんなだから気に入っている。
 せいぜい、楽しんでこい。







End
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