荘(仮)
娯楽遊戯
 ――キーンコーン、
 チャイムが鳴る。今日一日の勉学終了の鐘。
「それでは、今日の授業は」
 これまで、と言いたかったのだろう。クラス名簿やその他教材をまとめようとし、
「起立!!」
 どん、と響く声だった。
 ――カーンコーン、
 ちなみにまだチャイムは鳴っている。
「礼!!!!」
 頭を下げる。
 直角90度。
 それが本来の、とまではいかないが学生が学ぶ以上は、教師に見せる誠意だと、この先生は思っていた。
 しかしそれはスタートダッシュだった。

「今日こそトップ!」
 廊下側最後尾の列にいる茸原友貴は最高のダッシュを自覚した。
 体育の授業でも秋の体育祭でも、こんな好スタートは二度と出来ないだろうと自惚れるほど。
 しかし夢は覚めるものだ。

「どけやあ! 菌糸類!!!」
 反則スレスレの速度と角度でスライディングが飛んできた!
 スパイクを履いていたら大怪我ではすまない。
「あぶっ」
 顔面からすっ転ぶ友貴。
 その上に飛来する小さい影。
「敗者は悔しがって地べたに這いつくばっていやがれ!!」
「お前口悪ぃよ」
 2ーBのげっ歯類、子澄りす。
 茸とナッツには容赦しない小さな悪魔とも呼ばれている。主にその犠牲者から。
「悪いな茸。先に行くぜ」
「救済しよう、て気持ちは欠けらもないのかお前ら!?」
 当然だ、とフェードアウトするりす。
 じゃあな、と手を上げ去る久瀬カイト。
 敗者は言われたままに、情けなくも汚れた廊下にキスしたままなのか。
「ふざけんな、あの鼠泣かす!」
 憤怒の形相で駆け出す友貴。

 一波乱ではない騒動の端で。
「……」
 担任が一人固まっていた。
「まだホームルーム終わってないのに」
 全員が彼女に合掌した。
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