荘(仮)
「――て事があったんですよ!」
 ぷんぷん、と怒る女教師。
 特別な理由はない、彼松永崇が彼女と同期だから、しいて言うならそんなものだ。
 二児の父親にして社会人五年。
 数々のエピソードが伝説となり、慕い敬う生徒は多い。
 中にはこのような例外もある。
 要するに相談に乗ってもらいたかったのだ。
 学校一の問題児クラス担任として、副担任の先生に。
「うーむ、過激だな」
 困った口調の割に嬉しそう。
「なんとかなりませんか? もう学年主任の村田先生に怒られたくないんですよ」
「あのハ…先生ねちねち説教しますからね」
 ハゲと言いそうになって直す。
 鬘を使って隠匿しようと痛ましい努力をしているからだ。

「しかし若いうちは冒険と遊びはさせておくものですよ」
「若さ以前に学生の本文は勉強です!」
「何をおっしゃる!」
 否! と熱弁を振るう体育教師。無駄に暑い男だ。
「買い食い寄り道不順異性交遊! 学生時代は互いに遊んでいたでしょう?」
「…私、彼氏なんていないもん」
「おっとぉ」
 地雷だった。

「まあとにかくですよ、あまりがみがみ言ってもあいつらのためにならないと思うんですよ」
「…それは私も思います」
 自身が可愛いからではない。
 給料のためだけではない。
 純粋に生徒を導くものとして。自分の仕事に誇りを持っている。
 だから、この二人の教師は好かれているのだ。

「では松永先生、お住まいは彼らと近かったですよね」
 近いどころか、ある意味で一つ屋根の下だ。
「後はよろしくお願いします」
 爽やかで晴れやかな笑顔だ。
「…………は?」

 その時、ちょうど電話が掛かってきた。
 一人の学生が近隣住人の庭先に飛び込んできたそうだ。
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