荘(仮)
 そうして尋ねたのは魔の巣窟。
 この地すべての悪【アンリマユ】を前に、崇は足が震える。
「怖いの?」
 彼の女が心配する。
 その表情を見て、ダメだなんて言えるほど腐っていない!
「任せておけ。俺に怖いものはない」
 ぎゅっと、彼女の手を握る。
 男の温かさが、優しさが、愛しいが伝わってくる。
「ありがとう。でも」
 真摯な瞳が崇を射ぬく。
 雲雀は真っすぐ、彼の瞳を、心を、体を離さない。
「あなた一人にはさせない。私も一緒」
 静かに、重く、心に灯される聖火。

 ここにどんな絶望があろうと

 ここにどんな暗黒があろうと

 ここに一筋の光明が飲み干されようと

 雲雀と一緒なら大丈夫。
 崇と一緒なら大丈夫。
 絶対の信頼と絆、二つを重ね結わえているものは、愛。
 無条件ですべてを信じられる肩翼の存在。
『ひとりじゃないから、あなたがほしい』
 彼らはそうして生まれてきた。
「行こう。雲雀」
「ええ。私たちなら、なんだって出来る」
 重ねた手は離れない。
 あなたとともに。
 愚直なまでに強固で単純な思いを胸に。

 松永夫妻は
 この地すべての悪【アンリマユ】に挑みに行った。
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