荘(仮)
 銅より、鉄より、金より重い扉に手を掛けた。
 ぎぎ、と錆びた音。
 終演の極寒【ミッドガルド】の寒さが身に流れ込んでくる。
 夕方の明るささえも拒絶し、星の光を食べ尽くす闇。
 希望なんて、そもそも光りさえない。あるのは混沌。闇と闇が入り交じった深遠の連鎖のみ。

 その奥。

  闇の中央に

   何かがいた。

 ギシ、と歪む椅子。
 大袈裟な装飾がないシンプルな造りが、よけい座る者の姿をはっきりさせる。

「よく来たな、人間」

 傲慢で、厳かで、他者を対等に見ない瞳が在った。
 その色に、崇はぞっとした。
 覚悟を決めた雲雀さえ、それを翻しそうになる。
 泣いて喚いて布団の中に潜って、夜が明けるまで声を殺して泣きたくなった。
 誰もが考える思考の迷宮。
 幼き時分にはこの上ない恐怖。

『死』

 死ねばどうなる?
 死ねばどこに行く?
 人は何故死ぬ?

 考えれば考えるほどはまる底無しの迷宮。
 彼らは再びそこへ入り込んだ。
 死という恐怖に。

「そう怯えるな。何もとって食おう、と言うわけではない」
 口調には親しみの音がある。
 それを二人は、嘘だと捨てた。
 ためつすがめつ瞳は、未だに彼らを等しく見ていないからだ。
 家畜以下、貧民以下、道端に転がる石ころ同然。
 そんな扱い。
 そんな価値。
 そんな態度に、安堵など覚えはしない。
 友愛も親愛も、光より疾く遠ざかる。
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