荘(仮)
 管理人、堂本芳章がここに住み始めて半年になる。
 もはやこれは日常の風景。

「食事を終え、今日は休日。
 まったりとした時を二人は過ごしていた」
「何、その勝手なモノローグ」
 今日は立派な平日だ。
 つい数分前にも、遅刻確定だった学生が飛び出していった。
 まあ、文字どおりに。
 現在『伽藍堂』に残っているのは、専業主婦か年金暮しのお年寄りだった。
 または、このぐうたらな引きこもり。
「掃除くらいしなさいよ」
「俺がやると部屋が汚れるぞ」
「それ掃除とは言わない。
 せめて庭掃きついでに見回ってきて」
 最近は物騒なのだ。
 住人の身の安全を保障するのも管理人の務めである。
「物騒ってこれがですか?」
 芳章はどこからかホワイトボードを持ってきた。
 手にしているのは油性ペン。
 ――キュッ。キュッ。
 次々と、物騒といわれる巷の噂を書き綴る。
 油性ペンで。
 美琴のこめかみが引きつっていた。

「地方妖怪かつおの驚異!
 秘密結社スパルタンの暗躍? 行方不明カニ一匹!
 怪異、喋るトランシーバー! サンタクロースは実在した?」

 実に珍事件だ。
 最近のニュース番組も大変だ。
 それらを書き出して、じっとホワイトボードを見つめる。

 ――バン!

「こいつは大事件だ!」

 颯爽と飛び出していく芳章。竹箒は忘れていない。
 ――キュッ。キュッ。
 と、ホワイトボードに水性ペンで書き足す美琴。
「衝撃! 魔法遣いの死? 死因は撲殺」
 棒読みだった。
 掃除機の代わりに、刺付きハンマーが二つ。
 押し入れから転がりだした。
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