叩いても叩いても僕は君の世界を変えられない
「ただいま。今日カレーでいい?」
「うん。ジャガイモと人参は抜きでね」
「だめだよ。ちゃんと野菜も食べなきゃ」
トン、トン、と野菜を介して、まな板に包丁を叩きつける。
一番太い人参を選んだため、このサイズはキミの手首くらいかなと思いながら、横に真っ二つにした。
「早くバイト見つけなよ」
「うん。一応履歴書だけ送っておいた」
部屋には電気がつけられておらず、台所だけが明るい。
野菜を煮込むフェーズになったため、私はキミのもとへ向かった。
「どの仕事?」
スリープモードのパソコン前。
私はキミが手にした求人誌を覗き見る。
「これ」
指されたのは、冷蔵倉庫でのピッキング仕事。
「大変そうじゃない?」
「でも給料いいし、あまり人と話さなくてもよさそうだし」
「そっか。頑張ってね」
そう言うと、キミは震える手で、私の手をぎゅっと握ってきた。
私も同じ力で握り返す。
「いつもごめんね。これからはちゃんとおれも頑張るから」
目に入りそうな前髪の奥、二重の瞳を潤ませながら、キミはそう言った。
「それ言うの何回目?」
そう言って笑うと、キミは下を向いて黙ってしまった。