叩いても叩いても僕は君の世界を変えられない
高校時代はバレー部のアタッカー。
背が高くて格好良くて、成績も優秀。
まぶしすぎて、同じクラスだったのに私はキミと上手く話せなかった。
付き合い始めたのは卒業後のこと。
ネアカな営業マンたちに囲まれ、疲れた会社帰り。
地下鉄の駅、向かい側のホームにキミの姿を見つけた。
そういえば、キミが通う大学もこのへんだったっけ。
先にそのホームに電車が到着し、乗客を乗せて走り去った。
でも、キミはまだそこにいた。
ほどなく私のホームにも電車が到着した。
私も乗らなかった。
ドアが閉まり、繋がれた同じ形の車両たちが次々と過ぎ去っていく。
鋭い音と風とともに視界が開けると、キミと視線が重なった。
高校の時まぶしかったキミは、この地下の景色のようにくすんだ色をしていた。
部活も進路も友達づき合いも、キミは全て母親の言いなりだったらしい。
きっとその母親はキミを通してこの世界に存在していたのだ。
だから、母親がいなくなり残されたのは、1人じゃ何もできないキミだった。
えっと、家賃は払ったし、光熱費もよし。
携帯代はやばいかも。
安いプランに変えて、ネットは全部パソコンで見るようにしようかな。
そんなことを考えながら、私は夕飯の準備を始めた。
新しいバイトを始めたキミ。帰りを待つ身もたまにはいいものだ。
しかし――
「辞めます、って言っちゃった。おれ仕事覚えるの遅くてみんなに迷惑かけてたみたいだし」
家に帰ると、いないはずのキミの姿があった。
パソコンの青白い光が薄暗い部屋を冷たく包んでいた。
勤続日数、3日間。