叩いても叩いても僕は君の世界を変えられない


「ここのランチ美味しくてさ~。この前の資料のお礼ね」

「何かすみません」


山崎さんに誘われ行ったのは、路地裏の洋食屋だった。

小さなドリアを注文する。


「それで足りる? バケットもつけちゃいなよ」


「大丈夫ですよ。私小食ですから」


「だめだめ、中野ちゃん細すぎだし。もっと食べなきゃ」


営業マンの割には長い髪。毛先は遊ばされていてオシャレだ。

高そうだけど嫌味のない腕時計、スーツは細身。

端正な顔立ちは、笑うと親しみやすさも感じさせる。


何でこんなに格好良い人が、私なんかに構ってくれるのだろうか。


「ね、彼氏さんはどんな人なの?」


「たぶん世間一般にダメな人だと思います」


「ダメって?」


「大学辞めて、仕事も全然続かなくて」


水を飲みながら話していると、注文した料理が到着した。


「そっか。じゃ、中野ちゃんが頑張ってるんだね」


「まあ」


「辛くない?」


私が無言になると、山崎さんはハンバーグに添えられたポテトを取り皿に分け、私の前に置いた。


「今度飲みにでも行こうよ。もちろん奢るから」


「や、そんなの悪いです」


「もう、俺今中野ちゃんを誘ってるの。たまにはパーっとやろう?」


そう言って、山崎さんは屈託のない笑顔を私に向けた。


まぶしくて、私は上手くそれを見ることができなかった。



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