Sting


お父さんがアパレル関係の会社を経営していて、お母さんは看護師で、2人ともとても忙しそうだったけど、学校の行事には必ず顔を出して、とても仲の良い家族だった。


自分の家とはかけ離れた環境のそんな紺野家が羨ましくもあり、憧れでもあった。


小学校に入る前にずっと病気で入院していた母親が亡くなって、それから4年は父親と2人で暮らしていた。名の通る大きな企業のそれなりのポジションに就いていた父親が、私に構う時間があるはずも無く、母親が入院していた頃から家では基本的に1人だった。


小学校の運動会は、家族が観に来ている友達が羨ましくて嫌いだった。


たまに早く帰ってきてくれる父親の顔を見るのが嬉しくて、家事も頑張った。




でもそんな日常もある日がらっと変わった。私が中学に進学すると同時に父親が再婚話を持ち出してきた。


勿論、私が反対する理由も無く新しい母親がやって来た。


麻美さんというとても美人な女の人で、どこかで見たことあるなぁ、と思っていたら実は有名なファッションブランドのモデルさんだった。


父親と再婚したときは引退から1年くらい経っていたけど、完璧なプロポーションは女の私でも憧れるくらい。


最初の頃は麻美さんと上手くいっていた気がする。父親もなるべく早く帰ってくるようになったし、私も出来る限り仲良くなろうと努めた。


だけど、麻美さんは私のことを受け入れてくれなかった。


どちらかと言うと母親に似ていた私を毛嫌いしていた。


父親がいるときは仲の良さをアピールしていたけど、実際は過酷な生活だった。


家事は私がしていたし、気に入らないことがあると暴力を振るわれることもしょっちゅうだった。


でも、麻美さんと一緒に過ごす嬉しそうな父親を見るとどうしても言い出せずに、中高通じて約5年はそんな生活をしていた。

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