Sting
『…ゆきさんはあの後どうされてたんですか?』
「私はそれなりに元気にやってたよ。何か懐かしいね、洸太くんまだ中学生くらいだったよね?」
そんな昔話をしていると、研修課の課長が壇上に上がった。課長の挨拶で締めくくられて、やっと懇親会が終わる。
ぞろぞろと出て行く新入社員を見送って、ホテルに宿泊する地方組をホテルまで送ってお役目終了。
反省会をしてから家に帰ったのは、やはり日付を越えてからだった。
翌日日曜日は課長の計らいで珍しく休日出勤は無し。内々定者を出すまでは次の休みがいつになるか分からないから、この休みを利用して原先生に顔を見せに行く。
原先生が勤めている大学病院は、昔の古臭い外見をがらっと変えて綺麗に改築されていた。
どこに何があるかさっぱりわからずにきょろきょろしてやっとたどり着いた。つかの間の休息時間の昼休みに会ってくれるというので、差し入れもしっかり準備して指定された部屋のドアをノックする。
『は~い。』
間延びしたような返事はあの頃と何も変わらない。
「倖村です。失礼します。」
そっとドアを開くと、ベテランの風格を少し漂わせた原先生が座っていた。
そしてもう一人その隣には見覚えのある顔。
あぁ、医者になったんだ、兄弟みんな優秀なんだなぁとほほえましくなった。洸太くんの2番目の兄優太くんもぎこちない笑顔で返してくれた。