Sting
「原先生、優太くんお久しぶりです。」
『輪をかけたように美人になったなぁ。どう?体調は。』
「最近は特に問題無いですよ。原先生もお元気そうですね。あ、結婚されたんですね。」
『そ、ようやく落ち着きました。』
左手の薬指にはめられている指輪が、既婚者であることを物語っていた。
お父さんの年代よりも一回り下の原先生は、今じゃ出世街道まっしぐららしく、優太くんはその原先生に指導を仰いでいる新米のお医者さん。
『どうせ仕事忙しいんだろ?』
「そうですね、当分は休みも取れないと思います。」
『自分で自分の寿命縮めてどうするの?ゆきちゃんは自分に厳しすぎる。』
「生きて行くには仕事は必要ですから。」
『養ってくれる男見つければ良いのに。』
ぼそっと面白くなさそうな顔をして原先生が言った。
誰かに養ってもらうつもりもないし、結婚するような相手も見つかりそうに無い。原先生は私が忙しい仕事をしているのが心底気に食わないらしく、不機嫌な様子を隠そうともしないから話題を優太くんへ変えた。
「優太くん元気だった?昨日洸太くんに会ったよ。」
『洸太からすぐ電話がありましたよ。ゆきさんに会った!って凄い興奮してたから。僕も原先生から今日ゆきさんが来られるって聞いて、必死でお願いして着いてきました。』
洸太くんともよく似た笑顔を浮かべて話す優太くん。まさかとは思うけど、更に上まで連絡は行ってないよね、と少し不安になる。
彼らの一番上の兄は、今どこでなにをしているのか、洸太くんや優太くんに尋ねれば一発で分かるんだろうけど、それは私には出来ない。