Sting
『…何か変わったことがあればいつでも相談しろ。良いか?これは俺だけじゃなくて部長からの命令でもあるからな。』
「ご迷惑をおかけしてすみません。」
『いや、倖村さんのせいじゃないよ。今日はもう早退する?』
「…いえ、まだ仕事は残っていますから。」
『…じゃぁ、無理だと思ったらいつでも言って。』
「有難うございます。」
声も手も震えていることは分かっているけど、自分じゃどうしようもない。仕事に戻らないとこんなことを考えている間にもデスクに書類の山が出来ているはずなのになかなか立ち上がれない。
だけど、いつまでもさぼって給料泥棒するわけにもいかない。何とか立ち上がって会議室をあとにする。
『うわっ…ゆきさんっ!…顔色悪いですよ、大丈夫ですか?』
自分の課に戻ると、入り口近くのデスクを使っている後輩にびっくりされた。
その声に皆いっせいにこっちを見るからたちが悪い。
「大丈夫。ありがとう。」
曖昧に笑ってデスクに着くと水瀬にもびっくりされた。
『何かあったの?』
「ううん。何も。」
『体調悪い?』
「そういう訳じゃないの。大丈夫だから。ごめんね。」
そういいきってしまうと、何か言いたそうな水瀬も黙った。有り難いことに仕事だけは山積みで、その日からは何も考えたくなくて積極的に残業も引き受けた。