Sting
『ゆきさん、代わりますよ?』
と相当飲まされてるはずなのにけろりとしている洸太くんに代わってもらって、お座敷を出た。
とは言っても、携帯に表示されているのは非通知、きっと無言電話だろうと思って一応出ると案の定ただの無言電話。慣れたけど、誰が何のためにかけてくるのかが分からなくて寒気がする。
8年前の事件で、何か被害を被った人が他にも居るのか、ただの嫌がらせなのか…。
今日だけでもう10件の着信。
何がしたいんだろう。
そんなことを居酒屋の前で佇みながら考えていると後ろで扉が開いた。
『、倖村さん?』
「永澤さん、お疲れ様です。どうかされました?」
完全に油断してたから、一瞬びっくりした。永澤さんとあの話をしてから、永澤さんが気を使ってくれているのは分かってる。事情を知っているのが部長と永澤さんだけだからというのもあるんだろうけど、そこまで気を使われなくても大丈夫。
『大丈夫か?』
「大丈夫ですよ。知り合いからの電話です。」
『本当か?』
「なんだか心配させてしまってすみません。部長にも大丈夫だと言っておきますね。」
『…、倖村さんっていつもそんな感じだよな。』
「と言いますと?」
『人を必要以上に寄せ付けない感じ。』
そういうつもりは全く無いけど、そう思わせてるんだったら相当感じ悪いな、私。
答えに困っていると永澤さんは曖昧に笑った。