Sting
『とりあえず、薬増やすから。ちゃんと飲んで。』
「いつもすみません。有難うございます。」
いつも患者さんに優しい原先生がそっけなくそう言い渡すから、口答えなんかしなければ良かったな、と後悔した。
自分の体調があまり良くないことは分かっているけど、だからといって仕事を休むと他の人に迷惑がかかるし、何よりもお金が入ってこない。ちゃんと寝るためにもしばらく飲み会はお預けかな、なんて考えながら病院を後にした。
週代わりで取る夏休みは、休みを貰ったからと言って特に何もすることがないから、他の人に先に決めてもらって最後に空いたところに入れたけど、やっぱり何もすることが無くて、結局体調を回復させるために寝てばかり。
起きては掃除してご飯を食べてめったに見ないテレビをぼーっと見て、たまにかかってくる仕事の電話に対応した。
こんなんなら出勤してるほうがまだましだな、なんて苦笑い。
昼間、特に面白いテレビがあってなくて、ワイドショーとかニュースを行ったり来たりしていると、ふと見知った会社のロゴが画面に映し出された。
『Azure』
富裕層向けのスーツやコートから始まり、今ではカジュアルなレーベルも手がけている日本随一のファッションブランド。爽太のお父さんの会社。
そのAzureが海外展開を拡大させるというニュースで、今話題になっている男性モデルと女性モデルを使ったポスター撮影の現場を取材していた。
上質な素材を使っていて、値段はお手ごろとはいいがたいけれど、長く使えるとても良い洋服ばかり。
爽太は元気にやっているんだろうか…。
そんなことに思考が向いた。
小学生のときからずっと家が隣同士で、学校もずっと同じで、優太くんや洸太くんも一緒になって良く遊んだ。