Sting


「はい、倖村です。」

『あ、もしもし?紫ちゃん?』


ん?そもそも私のことを”紫”と呼ぶのは近くに居ない。昔から”ゆきちゃん”と呼ばれていた。強いて言うなら父親と母親と爽太と爽太のご両親くらい。


そして、電話の向こうは若い男の人だけど、爽太の声ではないと思う。


「すみません。どちら様でしょうか。」

『あ、ごめん。駿です。森本駿です。』

「あ、駿さんですか。お久しぶりです。すみません。」


名前を聞いた瞬間、さっと緊張が走った。連絡が来たのは8年ぶり。麻美さんの年の離れた弟さん。確か私より4つか5つ年上だった気がする。


麻美さんが父親と結婚して知り合ったけれど、特に連絡を取り合うようなことは無かった。何故電話番号を知られているんだろう…。


別に駿さんに直接なにかされたわけではなけれど、急に悪寒がして来た。


『紫ちゃん、今日本に居るの?』

「…はい。」

『そっか、きっと美人さんに成長したんだろうなぁ。』

「…そんなことは無いですよ。」

『今度会おうよ、久しぶりに。』


まるで、何年か会ってなかった友達に話しかけるようにフランクな口調で駿さんはそういった。なんで素直に返事が出来ないんだろう。いくら麻美さんの弟といえど、一応親戚なのに…。


『紫ちゃん?会ってくれるよね?』


駿さんが念を押してくる。

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