Sting
課長がワイングラスを片手に洸太くんを指差した。洸太くんの周りには同期の子たちや社員が集まっていて、なんとなくいつも人に囲まれていたお兄ちゃんを思い出した。
しばらく課長と話していると、新入社員に囲まれるようになった。本社の仕組みはあまり知らないから、上手く説明できない分は課長に任せて、輪を抜けた。
懇親会のお開きの時間が近づいているから、片付けに関して何かすることは無いかを研修部の人に確認するためにうろうろしていると、呼び止められた。
『ゆきさんっ、』
「あ、洸太くん。」
『…あの…、お元気でしたか?』
「…うん。あの時は本当に迷惑かけてごめんなさい。ご両親はお元気?」
どういう口調で洸太くんと話せば良いのかが分からなくて、少し白々しいような冷たいような口調になってしまった。
あれから8年。
あの頃はまだ中学生だった洸太くんも今ではすっかり成長していて、なんだか感慨深い。
『うちは相変わらず元気です。兄2人も相変わらずです。』
「そっか。昔からパワフルだったもんね、紺野家は。」