鬼蜘蛛【短編】
月下の竹林を夜風が撫でる音に混ざり、駆け抜ける小さな気配。
次第に近づいてくる気配を感じて、ソレは八つの目を細めた。
「おのれ!! あやかしめ!!」
藪が割れる。
竹林を抜け出した崖ッぷち、空に突き出すかのようにせり出した岩場にむかい放たれる殺意の塊は、目標に届くことなく、きらきらと月光を受けて光る細い糸に宙で絡めとられる。
「そんなに殺気丸出しではいけないよ、黄蝶」
「……なっ……!!」
振り返る人影の、その顔を見て。苦無を投げ放った少女は息を飲んだ。
「……長……?」
黒い着物を着流しにした背の高い男。長い黒髪を揺らす細く色白なその顔は、黄蝶が幼き日より育て教え鍛えてくれた長その人。
「く……っ!! 幻術か!?」
黄蝶は、ぎり、と唇を噛んだ。