鬼蜘蛛【短編】
――小さな忍びの里
異変は突然訪れた。
折りしも、近々行われる天下の分け目ともなるだろうと言われる大きな合戦へ、お屋形様より召集され出立を控えた前夜。
まだ年端もいかない十名程の忍達にとっては初の任務でもあった。
長の勧めるままに、仲間と共に明日に備え早々に眠りについた黄蝶は、深夜ただならぬ妖気に目を開けた。
驚愕と戦慄。
同じ小屋に眠る兄弟達は皆、得体の知れぬ糸に巻かれ意識を失っていた。
青白さを通り越し、土気色の顔色。
小屋中に充満する、底冷えのする尋常ではない妖気。
黄蝶自身身体を糸に巻かれていたが、常から袖口に隠している苦無を使い何とか糸を切り、抜け出す。
「茜! 三郎太! 疾風!!」
兄弟達の名を呼びながら頬を打ち、身体を揺するが反応はない。完全に意識を失っている。
べとつく糸越しにその胸に耳を当てるとかすかに鼓動が聞こえた。