鬼蜘蛛【短編】


その妖気をたどり、妖気に当てられたか……ややもふらつく足を懸命に鼓舞して竹林を駆け抜け。そして、追いついた。



そう……思ったのに・・・…



「追ってきたか……。皆と同じように眠りについていれば良かったものを」

化け物を追ってきたはずなのに、よく見慣れた、敬愛する人物が目の前でいつものように悠然とした笑みで自分を見つめている。

何故、長が此処に居る。あの妖気を間違うはずはない。確かにあの蜘蛛の化け物を追ってきたはずなのに……だが、小屋に長の姿はあったか?見ていない。長はあの時何処にいた?

一体どういうことだ?

だが、ありえない。自分や兄弟たちを育て、鍛え、一人前になるまでにしてくれた長が、このようなことするはずがないのだ。ましてや長が化け物など……そうならとっくに気付いている。忍は妖気に敏感なのだから……

これは幻術。あの化け物が見せているまやかし…・・・惑わされるな。惑わされたらおしまいだ。

「皆に何をした! 術を解け!! 元に戻せ化け物!!」

見慣れた長の姿をした化け物から漂う妖気は半端なものではない。腹のそこから這い上がってくる不快感を伴う寒気に耐えながら、黄蝶は震える手で、だが、しっかりと握り締めた忍刀を構える。

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