鬼蜘蛛【短編】




大きく……なった。立派に……





雄雄しく立ち向かおうとする少女を見つめて、男は目を細めた。

あの時糸に巻かれ吊るされ笑い声を上げていた赤子が、今、自分に向けて刀を構えている。

鋭利に研ぎ澄まされた殺気。彼女は今や里一番の手練れに育った。

「術を解かぬなら、倒すまでっ!!」

地を蹴り刀を手に、竹林を背に宙に舞い上がる姿。

その名のままに、蝶のように軽やかに、美しく舞う……

キン……ッ

振り下ろされた刀を、懐から抜いた懐剣で受け止め

「合戦など忘れてしまえ。死に戦なのが分からぬか?」

至近距離に迫った少女の耳元に囁く。

「……っ!!」

瞬時に少女は身を引き、飛び退り距離をとる。

「黙れ化け物!! 長はそんなことは言わない!! どんなことがあろうとお屋形様に忠義を尽くし、その命に逆らうことは許さぬと。それが忍の掟だと……長は常々言っていた!!」

着地と同時にその手から細身の針状の鉄を繰り出す。

正確に狙いすまし投げ放たれた何本もの手裏剣。

瞬時に男の五指の先から放たれる糸に振り払われ……無情に地に落ちる。

「くっ……!!」

悔しげに唇を噛む少女の前で、男の影が揺らぐ。

「何故死に急ぐ……どうせ死ぬなら……」

ギチギチ、と骨のきしむような嫌な音が辺りに響く。




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