鬼蜘蛛【短編】
「あ……ああ……」
目の前で姿を変えてゆくそのおぞましい形態に少女は思わず声を漏らした。
近くにいるせいか、先ほど小屋で見たときよりも遥かに大きく見える。更に強まる妖気……
「我の糧となり、果てよ」
しゅうう、と吐き出される冷気と共に化け物が呟く。
振り上げられる、刺に覆われた長い前足。
――ガッ!!
すんでのところを地に身を転がせてかわす。が、容赦なく次々と振り下ろされる八本の足。
「おの……れえっ!!」
懸命にそれをかわしながら黄蝶はうめく。
だが、すぐに崖ッぷちの岩場の影に追い詰められてしまった。
「ぐ……っ」
岩を背に、八本の足が檻のように黄蝶を取り囲む。
そのうちの四本が、黄蝶の着物の両袖と脚絆を地に縫いとめるように突きたてられていた。まるで蝶の標本のように……
グロテスクなその腹を至近距離に目にして吐き気がこみ上げるのを必死でこらえる。
この窮地をどう脱して攻撃に転ずるか、必死で頭を回転させる黄蝶に蜘蛛が囁く。
「さあ、どうする?」
その音色は、どこか愉しげな響きを持つ。それが、更に黄蝶の神経を逆撫でした。
「侮るなよ!! 化け物風情が!!」