Serendipity(セレンディピティ)
「…えっと、あの…何とお礼すればいいのか…痛たたっ!」
「焦んなくていいよ。今はここでゆっくりしなさい。ミルク用意したんだが、飲めるかい?」
その青年は優しい表情で
わたしの背中を支え、ゆっくりと起こしてくれた。
「…はい。…ありがとうございます…」
マグカップを持つとじんわりと手を温めてくれる。
ゆっくりと口に注げば、
温たかくて優しいミルクの味が
体に染み込んでくる。
「…あったかい…美味しい…」
「それはよかった」
微笑んだその青年の顔が脳裏に焼き付く。
「その娘も無事だったことだし、わたしはもうそろそろ行くよ。毛布、ここに置いとくぞ涼。」
「ああ、わかった。気をつけて。」
そのおじいさんはそう言うと
後ろの影に隠れて見えなかった
大きめのスーツケースを転がしながら
店を出ていってしまった。