喪失
第一章 星空

サックスの彼

私が最初に彼に出会ったのは、パソコンの画面の中だった―――


と言うと、なんだか聞こえが悪い。

ネット上の恋愛はしばしば咎められるけれど。

私の恋は、それとは少し違う。



大学の授業は、高校と違ってびっしり詰まってはいない。

どうしても、「空きコマ」と呼ばれる時間があって、私はその時間を悠々自適に過ごしていた。

友達と話したり、たまっているレポートを片付けたり。

一人で暇なときは、ラウンジのパソコンをいじったりする。


その日は、何の気なしにある楽器について調べていた。


それは、サックス。

中学生の頃は吹奏楽部だったけれど、私は希望の楽器を吹くことができなかった。

それで、その頃からずっと憧れている楽器がサックスなんだ。

低音楽器を担当していた私は、旋律を吹いてみたいといつも思っていた。

旋律を吹く楽器、その中でも特にかっこいいのが、アルトサックス。


大学生の今は無理だけれど、働くようになったら、楽器を習いたい。

そして、その楽器とともに、地域の吹奏楽団に入りたい。

中学生のとき、私は体のせいで、結局最後まで吹奏楽部を続けられなかった。

それが悔しいんだ。

だから、あの頃の夢を、大人になったらもう一度追いかけたい。

そう思っている。


近くの教室やら、月謝やら、具体的なことを調べていた私。

でも、憧れている割には、私は何も知らない。

サックスで吹けるジャズの名曲とか、そういうのも知らない。

何かあるかな、そう思って。

動画を検索した。


それが、あなたに出会うきっかけになるなんて、思いもしないで。
< 1 / 62 >

この作品をシェア

pagetop