喪失
第二章 伝えたい想い

それから

それからの私は、必死にバイトもしたし、春次郎さんとの約束を守って、授業にもちゃんと出た。

たまにさみしくなると、ルパン三世のテーマを聴いた。

彼に出会う、きっかけになった曲だ。



「すみれ、最近明るくなったよね!」


「そう?」


「恋でもしてんじゃないのー?」


「ふふっ、そうかもね。」


「え、なに本気?」


「べっつにー。」


「え、教えてよ。すみれ、ってば!」



親友の明紀(あき)に問われても、相変わらず私は何も明かさない。

春次郎さんのことは、丸ごと全部私の秘密。



「あー、もしかして、バイト先に素敵な人がいるとか?だからバイト頑張ってるの?」


「え?バイト先なんて、上司のおじさんしかいないよ。」


「てかさ、すみれってどこでバイトしてるんだっけ?」


「私?図書館。」


「図書館の司書ってこと?」


「あー、うん。簡単な窓口業務だけだけど。」


「わかった!本を借りに来る人が、かっこいいんだ!」


「違うよもう。」



私が笑うと、明紀は不服そうな顔をする。

だけど、そういう時は私が絶対に明かさないことを知っているから、もうそれ以上突っ込まなかった。



「そっかー。すみれが恋か~!」


「そういう明紀はどうなのよ。」


「私は、……最近、あんまりうまくいってないんだ。」



明紀の表情が突然曇る。

明紀には、去年から付き合い始めた彼氏がいるんだ。



「けんか?」


「そう単純なことならいいんだけど。」


「明紀だって、彼氏のこと教えてくれないじゃん。」


「だって私の彼氏のことすみれに話したら、引くもん絶対。」


「引いたりしないよ。」


「いいの。……どうしても我慢できなくなったら、そのときは聞いて。」


「わかった。」



明紀の物憂げな睫毛が、頬に影を落としている。

そんな彼女が、私は心配だった。

一体、どんな恋をしているというのだろう、明紀は。



「すみれも、何かあったら言いなさいよ!」



無理するように笑って、明紀が威勢よく言った。



「わかった。ありがと。」



何か、なんて。

この先あるのだろうか。

好きな人のことで、悩んだり苦しんだりできるだけで、素晴らしいことだと思う。

だって、それだけその人と関わって、だからこそすれ違いが生じたり、けんかしたりするんだから。


この時の私は、そんなふうに考えていたんだ。
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